2024年4月より、運送業に対して時間外労働の上限規制(年間960時間)が適用されました。
ドライバーの残業時間の規制によって、これまで運送業の課題とされていた労働環境を改善し、働き方改革を推進することを目的としています。
すでに、ドライバーの残業時間に対して「月60時間以内」「月45時間以内」などのルールを設定している運送会社も多いのではないでしょうか。
一方、運送業界では、この残業規制によって生じる課題も浮き彫りになっています。
運送業で持続可能な経営を目指すには、この課題にどう対処するかが重要になるでしょう。
この記事では、運送業における時間外労働の上限規制について、残業60時間を超えるとどうなるのか、起こり得る課題と対処法を解説します。
2024年4月1日以降、運送業で働くドライバーの残業時間に関する規制が大きく変わりました。
新たな規制により、年間の時間外労働の上限が厳格に設定され、これまで以上に労働環境の改善が求められるようになっています。
2019年4月に施行された労働基準法改正では、働き方改革の一環として時間外労働の上限が定められました。
具体的には、月45時間、年間360時間を超える時間外労働が原則禁止され、これを超える場合には特別な条件が必要です。
この改正は、過重労働を防ぎ、労働者の健康を守るための重要な措置とされています。
運送業においては、時間外労働の上限規制について特別に5年間の猶予期間が設けられていました。
これは、業界特有の労働環境や業務内容を考慮したもので、規制の即時適用が難しいと判断されたためです。
運送業に対する上限規制は、猶予期間が終了した2024年4月1日から適用されました。
今後はほかの業界と同様の規制が求められます。
2024年4月1日以降、運送業に対する残業時間の上限は年間960時間となりました。
これは月平均で80時間に相当するため、残業が60時間を超過することに法律上の問題はありません。
ただし、月60時間を超える時間外労働には50%の割増賃金率が適用されます。
そのため、運送業でもドライバーの残業時間を「月60時間以内」に抑えている企業が多いようです。
月60時間以上の残業について、詳しくは次章で説明します。
運送業における月60時間以上の時間外労働は、企業やドライバーにさまざまな影響を与えます。
続いては、ドライバーの残業が60時間を超えるとどうなるのか、具体的な影響と対策について説明します。
2010年の労働基準法改正により、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が、25%以上から50%以上へと引き上げられました。
この改正は、大企業に対しては2010年4月から、中小企業には2023年4月から適用されています。
そのため、月60時間を超える残業は、企業にとって人件費の負担が増えることになります。
しかし、ドライバーの労働時間を完全に60時間以内に抑えるのは難しいのが現状です。
特に、配送計画の作成や日報作成といった業務はドライバーが外出を終えてから事務所に戻って行う必要があるため時間外に行われることも多く、人件費の増加に悩む運送会社は少なくありません。
深夜(22:00~5:00)の時間帯における時間外労働が60時間を超える場合、割増賃金率はさらに引き上げられ、75%以上となります。
運送業において深夜の業務は避けられない部分もありますが、深夜帯の長時間労働は企業にとって大きな負担となり得るものです。
長時間労働は、ドライバーの肉体的及び精神的な負担を増加させる要因となります。
特に、長時間労働が慢性化している場合、疲労の蓄積による健康問題や労働意欲の低下が起こり、ドライバーの離職の原因にもなりかねません。
ドライバー不足が問題視されている運送業において、企業側の適切な労働時間管理と労働環境の改善は不可欠と言えるでしょう。
運送業界では、2024年4月から適用された残業規制によって、さまざまな課題が生じています。
これらの課題は、ドライバーの働き方だけではなく、運送業のビジネスモデルにも影響を与えるため、根本的な改善が求められるでしょう。
残業規制の強化により、企業としてはドライバー1人当たりの労働時間を短縮する必要があります。そのため、これまでの輸送量を維持するには、新たにドライバーの増員が不可欠です。
しかし、運送業界はすでに慢性的な人手不足に悩まされており、新規のドライバーを確保するのは非常に困難です。多くの企業が採用活動を強化していますが、需要を満たすだけの人材を確保するのは容易ではないでしょう。
ドライバー不足の状況が長く続くと、運送業界全体の効率を低下させ、業務の遅延やサービス品質の低下を招くリスクがあります。
関連記事:ドライバー不足を対策するには?現状や物流業界における2024年問題への対処法も解説
ドライバー不足のなか、やむを得ず月60時間以上の残業をさせる場合、割増賃金の支払いによって人件費が増加します。
さらに、近年では輸送燃料の価格も高騰しているため、総合的な輸送コストが上昇するでしょう。
輸送コストの増加は、運送会社の経営自体を圧迫する可能性があります。
運賃の引き上げを余儀なくされるなど、消費者に価格転嫁せざるを得ない状況に陥ることも懸念されます。
ここからは、運送業に対する時間外労働の上限規制(年間960時間)、月60時間を超える時間外労働への割増賃金にどう対処すれば良いのか、具体的な対策を紹介します。
労働環境の改善は、既存ドライバーの離職を防ぎ、人手不足を解消するために非常に重要です。
法律で定められた残業時間の上限は年間960時間(月平均80時間)ですが、割増賃金などによる人件費の負担を考えると、月60時間以内を目指すことが望ましいでしょう。
ただし、残業で収入を得ていたドライバーに対しては、その分を補填する手当の付与や、休暇・福利厚生を充実させることが必要です。
さらに、歩合制を採用している場合も、残業代は別途支払う義務があるため、注意しましょう。
ドライバーの労働環境が改善されれば、新たな人材の確保もしやすくなるでしょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、配送業務の効率化を実現するために有効な手段です。
これまで手作業で行っていた業務を自動化・効率化することで、ドライバーの労働時間を無理なく減らすことができます。
例えばLPガス配送ドライバーの場合、配送管理システムの導入やデジタルツールを活用することによって、配送計画や業務日報の作成といった時間外対応となってしまいがちな業務を効率化し、生産性向上を図れる可能性が高いです。
関連記事:物流DXとは?必要とされる背景や課題、取り組み事例を紹介
運送業における残業60時間規制は、単にドライバーの長時間労働を抑制するだけではなく、企業の輸送コスト増加を防ぎ、人材不足を解消するためにも有効な取り組みです。
ドライバーの労働環境が良好であることをアピールすることで、新たな人材の獲得もしやすくなります。
しかし、運送業の残業規制に適切に対応するには、ドライバーの労働環境の改善や、DXによる生産性向上などの取り組みも同時に行っていく必要があります。
例えば、効率的な配送計画・ルートを自動で作成してくれる「配送管理システム」などの導入によって業務負担が軽減すれば、生産性の向上や、長期的にはドライバーの労働環境の改善にもつながるかもしれません。
残業60時間規制について、着手できることからぜひ始めてみてはいかがでしょうか。